ねりまの文化財を訪ねて=12=
僧衣をまとった馬
本寿院境内(早宮2-26)の、墓地への入り口に立つ祠(ほこら)に、馬が衣を着て座している形の石造物「僧形馬頭観音(そうぎょうばとうかんのん)」が納められています。
高さは44㎝あり、上部が船の舳(へ)先のようにとがった形をしていて、石の中央には像が浮き彫りにされています。向かって右側面に「文政六年 六月廿(二十)日 駄善孩子(だぜんがいし)」、左側面に「施主 三河屋安次郎」と刻まれています。この石造物は馬頭観音石塔で、三河屋安次郎がかわいがっていた馬の供養のため、江戸時代後期の文政六年(1823)に建てたものと考えられます。
馬頭観音は、六観音の一つで、憤怒の形相をした観音の頭上に馬の頭が造られたものです。本来は、悪鬼を退治する仏でしたが、江戸時代に入ると、念仏供養塔や庚申塔など民間信仰で建てられる石塔に彫られるようになり、江戸時代の中頃からは、墓石にも彫られるようになりました。また、「馬頭観音」の文字を刻んだだけの石塔も出現し、明治期になっても数多くの馬頭観音石塔が建てられました。
区内には、百基を超える馬頭観音石塔が残っていますが、「僧形馬頭観音」のように馬の頭をして僧衣をまとっているユニークな形をしたものはこれだけです。本来の像の姿を崩して、観音様の代わりに馬の頭を彫ったものと考えられ、とても珍しいものです。三河屋さんがよほどかわいがっていた馬の姿を表現したものなのかも知れません。
商人や農家にとって、馬は運搬や耕作のため、大切なものでした。江戸の近郊農村として発達した練馬区には、数多くの馬頭観音石塔が残っています。飼い主と一体となって働いてきた馬への愛情を示すものと言えるのではないでしょうか。
▽所在地 早宮2-26 本寿院境内
▽問合せ 区役所内伝統文化係
平成12年7月21日号区報
写真は、「僧形馬頭観音」(令和4年 区登録有形民俗文化財・平成5年度登録)