ねりまの文化財を訪ねて=5=
ねりまの文化財を訪ねて
旅人の願い ~北町観音堂~
北町二丁目の旧川越街道沿いに北町観音堂があります。ここには、区内最大の石仏である北町聖観音(しょうかんのん)座像[区指定有形民俗文化財]や仁王像[区登録有形文化財]、馬頭観音などの石造物があり、江戸時代、北町が川越街道の宿場(下練馬宿)であった名残をとどめています。
聖観音座像は、台座まで含めた高さが270cmにもなります。蓮華(れんげ)座に座し、右手はすべての畏怖(いふ)を除くことを示す印相を結び、左手に蓮華を持っています。背面には、「武州河越多賀町隔夜浅草光岳宗智月参所奉新造正観音為四恩報謝也 旹(時)天和二年(1682)壬戌年八月吉辰日 願主敬白」と造立趣旨と制作年月日が刻まれています。台座には、下練馬や上板橋など板橋から川越に至る川越街道沿いの29の地名が刻まれています。この背面や台座の刻字により、僧・光岳宗智が、川越と浅草の間を往復し、道中のこの場所で街道沿いの村々の人々に信仰を広めていった様子をうかがい知ることができます。
江戸周辺を探訪した十方庵敬順という小石川の僧が記した紀行文『遊歴雑記』に、文化12年(1815)、観音堂を訪れた記事があります。また、明治34年(1901)に開業した、板橋と白子(和光市)を結ぶ乗合馬車は、観音堂を目印に運賃を定めており、板橋から観音堂までは5銭でした。
このように、北町観音堂は川越街道を往来する人々に目立つ存在でした。通りすがりの人はこの場所で、ここまでの無事を感謝し、これから先の安全を祈ったことでしょう。皆さんも訪れてみてはいかがでしょうか。
▽所在地 北町2-38
▽問合せ 区役所内伝統文化係
平成10年9月11日号区報
写真は、「北町聖観音座像」 (平成29年)