庭園の針葉樹
外はうだるような暑さでも、庭園は別世界。うっそうたる林にはひんやりとした風が吹きぬけています。
今回は、庭園の針葉樹をいくつかご紹介しましょう。
ダイオウマツ(マツ科)
真夏は花も少なく、庭園の景色は少しさびしくなります。こんな時、濃いみどりの中でひときわ目立つのが、門を入ってすぐ前にそびえるダイオウマツの大木です。北米原産のこの木は長く下がった葉の形に特徴がある、珍しい木です。
数多い樹木の中で、マツは、私たち日本人が最も好むものの一つです。古来、わが国の景勝地にはマツが多く、日本の風景を美しくしている大切な要素であると言えます。私たちは、千代も変わらぬ常磐木(ときわぎ=常緑樹)であるマツをめで、勢いのあるその姿を味わいます。そして、松葉の2本がいつも離れず連れ添っていることを、「枯れて落ちても二人連れ」とうたい、共白髪の夫婦にたとえて尊んできました。
庭園にあるマツの中で、クロマツ、アカマツは2葉、ゴヨウマツ(五葉松)はもちろん5葉、ダイオウマツは3葉です。ダイオウマツの葉なら、松葉ずもうが2回戦までできるかもしれませんね。
メタセコイア(スギ科)
あずまやのそばにある、聞きなれない名の針葉樹――。
昭和16年、大阪市立大学の三木 茂博士が、日本の第三紀層の地層からこの木の化石を最初に発見し、命名しました。その後、昭和20年に中国でこの木の生きた立木が発見され、生きた化石植物として大きなニュースになりました。
牧野博士の随筆によれば、当時、米国が探検隊を中国に派遣し、この木の種子を持ち帰り、それから得た苗を世界各国の研究機関に配布したものの中の1本が、この庭園の木だそうです。
メタセコイアは、針葉樹には珍しく落葉します。近い種類でやはり落葉するものに、ラクウショウ(落羽松)があり、石神井公園のボート池のまわりのものは見事です。
イチョウ(イチョウ科)
葉はとがっていないのに、イチョウもれっきとした針葉樹であることをご存知でしょうか(※)。今では、公園樹や街路樹として誰もが知っているこの木、元は中国原産のものです。
春、雄花の花粉が風に飛び、雌花(卵子)のごく小さな孔に受けとめられてから、双方がしだいに生長し、やがて秋になり、成熟した花粉嚢(のう)から精虫が躍り出て受精する生命の不思議。牧野博士は、イチョウが実を結ぶまでのそのさまを、許嫁(いいなずけ)の幼い男女二人にたとえて、「早くも男が後にお嫁サンになるべき運命をもったその嫁の家に引きとられて養われ、のちこの両人が年ごろとなるにおよんで初めて結婚するようなもんだ」と、感嘆をこめて書きしるしています。
庭園のイチョウは、記念館の西側にあり、直径50㎝を超える大木です。
夏の盛り、庭園のベンチでひとときの避暑はいかがですか。
※イチョウが針葉樹であるという点について、次号(9月11日号)の記事の中で、「実際にはイチョウを針葉樹に含めない考え方が一般的です(含める考え方もあり、前回の記述はそれによりました)ので、訂正しておわびします。」と訂正されています。
昭和60年8月11日号区報
※写真は上段:「長いダイオウマツの葉」、下段:「メタセコイア」