クスノキの仲間
うっとうしい梅雨の季節がやってきました。でも植物たちにとって、雨は大切な自然の恵み。湿潤で夏の気温が高い日本の風土を代表する自然林は、シイやカシなどの常緑広葉樹の林で、「照葉樹林」と呼ばれます。今回は、牧野記念庭園の植物の中から、この照葉樹林を構成するものの一つであるクスノキの仲間をご紹介しましょう。
クスノキはナンジャモンジャ?
昔から、名前のわからない珍しい木のことを「ナンジャモンジャ」と呼ぶならわしがあり、全国各地にこの名がついた木があります。数ある「ナンジャモンジャ」の中で、かつての青山練兵場(現在の神宮外苑絵画館近く)にある「ナンジャモンジャ」=ヒトツバタゴが急に有名になり、「ナンジャモンジャ」の木と言えばヒトツバタゴを指すことが多くなりました。ところが、牧野博士は、随筆の中で、本物の「ナンジャモンジャ」は千葉県下総の神崎神社にあるクスノキであるとし、「今では学者先生までもがヒトツバタゴをナンジャモンジャと呼んでいるのはいささか滑稽(こっけい)だ」と一蹴しています。この「ナンジャモンジャ」論争、勝負はさておき、樹木に対する人々の親しみが表れていておもしろいものです。
クスノキは、木全体に芳香があり、ショウノウの原料となります。門を入って左手のベンチわきに植えられています。
台所でもおなじみのニッケイ
インドシナ・中国南部原産のこの木は、江戸時代中期の享保年間に日本に伝わり、各地に広まりました。根皮に芳香があり、ニッキ、シナモンとして知られる香辛料に用いられます。
鞘堂の前に1mを超える幹回りで堂々と生い茂るこの木は、博士が高知か和歌山から持ち帰られたものと思われます。
将軍吉宗が広めたテンダイウヤク
風変りな名前のこの木は、ニッケイと同様、享保のころに中国から伝えられたもので、「天台烏薬」の名が示すように、根の部分を芳香健胃薬として用いる薬用植物の一つです。
享保の改革を行った8代将軍吉宗は、薬用植物の収集栽培をすすめ、日本古来の植物ばかりでなく、中国や朝鮮から伝わった品種の栽培にも力を入れました。テンダイウヤクもその一つとして広まり、今でも南紀や近畿地方を中心にその名残りの自生地をみることができます。
庭園内の2本のうち1本は、博士が南紀方面に植物調査に出向いた際、和歌山県新宮の神倉山に自生するものを贈られた8本のうち、ただ1本枯れずに残ったもので、もう1本は、昭和55年に地元の方が同じ神倉山から採取し贈ってくださったものです。
このほか、庭園内のクスノキ科の植物には、つま楊枝の材料で有名なクロモジの仲間のオオバクロモジ、西洋料理に欠かせぬ香辛料として、あるいは勝者の冠として知られるゲッケイジュ、早春に咲く黄色の花が可憐なアブラチャンがあります。
※テンダイウヤクについては、堺市愛泉女子短期大学の堀田武氏の論文を参考にさせていただきました。
昭和60年6月11日号区報
※写真は「テンダイウヤク」