庭園のつる植物あれこれ

牧野庭園だより

白い花のチチブフジ

 新緑がまぶしい季節がやってきました。牧野記念庭園の門に這わせたヤマフジが美しい花を見せてくれています。
 フジといえば、誰もが紫色の長く垂れ下がる花を思い出しますが、この庭園には、白い花を咲かせる珍しいフジがあります。昭和のはじめごろ、牧野博士は、埼玉県飯能近くの多峰巣山のふもとでちょっと変わったフジを見つけ、持ち帰って庭に植えました。このフジはどんどん生長しましたが、いっこうに花を付けず、十数年たって初めて花穂をつけました。ところが花の色は博士の想像に反し白色で、花穂は短く、花も小さく、ふつうのフジとは明らかに違う種類のものでした。庭に植えられるフジ(ノダフジ)のツルは右巻き、ヤマフジのつるは左巻きですが、このフジは、右巻きと左巻きが混じっているということもおもしろい特徴です。
 博士はこのフジにチチブフジという和名をつけ、学名には採集地の名を入れ、「ウィステリア・ハンノエンシス・マキノ」と命名して発表されました。

庭園のつる植物あれこれ

歌に詠まれるサネカズラ

 門をくぐり、右手の事務所を過ぎたところのアーチにからみついているのがサネカズラです。
    名にしおはば 逢坂山の
    さねかづら 人に知られで
    来るよしもがな
 三条右大臣の歌ににも詠まれているこのサネカズラは、「実(さね)蔓(かずら)」の意味で、実が目立って美しいためにつけられたのでしょう。この実は、和菓子のかのこによく似た形で、秋から冬に赤く熟したこの実が葉の間から垂れ下がっているさまは、なかなか趣のあるものです。
 サネカズラは別名ビナンカズラ(美男蔓)とも言います。これは、枝の皮に含まれる粘りのある汁を水に溶かし出して、髪を整えるのに用いたためです。

甘味なムベ

 さらに歩を進め、鞘堂の前に至ると、チャンチンの大木にうっそうとからみついたムベが紫がかった気品のある花を多数つけています。掌状の整った形の葉と、紫色に熟す楕円形の大きな実に特徴があります。この木は、滋賀県の奥島という所から移し植えたものだと博士は記していますが、奥島にはムベがたくさん自生し、実がなると京都の朝廷へ献上したということが「閑田筆耕」という書物に載っているそうです。献上品とされたほどにムベの実は甘くておいしいのですが、種が多いので食べにくいものです。 
 ムベはアケビの仲間ですが、アケビが冬に落葉し、熟すと実が縦に開いて黒い種を含んだ白い果肉を見せるのに対して、ムベはトキワアケビの別名が示すように常緑で、熟しても実は開きません。

昭和60年5月11日号区報
※写真は「花後に実をつけたノダフジ」

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